改善の記憶

現場の改善に20年超かかわってきました。改善活動は人間ドラマの連続です。人とのかかわりの中で、成功もあれば失敗もある。若い時はうまくいかなかったが、今ならもう少しうまくやれたかも。改善は終わりのない挑戦でもある。

 

改善体験記

改善はいつでも一つの手がかりから多数の改善につながっていきます。ゆえにちょっとした身近な出来事に敏感になり、現場を見て、考えることが大切です。現場の人に実際の話を聞いてみる、ということも大切です。

 

工場見学の記憶

今前いろいろな業種の工場を300社以上訪問し、現場で話を聞いてきました。とても貴重な体験だと思います。

現場を客観的に見て、その時々に自分が感じたことをひたすらメモに取ってあったので、順に投稿しています。

 


棚番変更

 ある工場からピッキング作業について「作業が非効率」「残業をへらしたい」という話が出ていて、さっそく現地視察に赴いた。現場でピッキング作業を観察してみると、確かに作業者が棚の前を行ったり来たりしている。作業者にインタビューしてみると、「とにかく歩き回ってへとへとになる」「同じところをいったりきたりしている」しかし「ピッキングリストに従って作業をしているのだから、自分が悪いわけではない」という意見であった。
 固定ロケーションを取る場合、原則としてどの部品をどの棚に保管するかについては作業効率を踏まえて設定するべきである。この事例の場合、必ず左右一対で出荷される部品があったが、右部品については棚の右端に、左部品については棚の左端に保管されているため、この部品が出荷されるときは必ず棚の端から端まで歩かなくてはならず(その距離約20メートル)、作業効率が非常に悪い。必ず左右一対で出荷されるのだから、この二つの部品を隣同士の棚に保管することにした。
 この発見を手掛かりに、部品間の出荷の関連性を調べたところ、完成品の構成に基づいて出荷部品に一定のまとまりがあることが確認できた(当たり前のことではあるが)。そこで一定のまとまりに基づいて部品を類型化し、作業者の動線を極力少なくなるように棚区分を見直して保管することにした。これにより、モノによっては歩き回らなくとも周辺の棚に手を伸ばすだけでピッキングが完了するようになった。その結果、一リスト当たり2時間半かかっていた作業が、30分程度で終了するようになった。作業時間を毎日一リスト当たり2時間削ることができた。

【コメント】 30年とか40年とか前から営業している工場・倉庫では、少品種大量生産時代の大型の保管棚や倉庫レイアウトをそのまま使用していることが多い。廃番や新部品の追加で棚番設定が交錯し、いつしか保管に一定の法則がなくなってしまうことがある。この事例では、入荷作業者が左右一対の部品については「見分けがつかなくて棚入れミスが起きてしまうから」という理由で、見た目がそっくりな部品について棚の両端に離して保管するように、保管場所を変更していたことが判明した。一方で、出荷作業者としては、いつのまにか保管場所が変更されたことになり、ピッキングのたびに端から端まで歩き回る羽目になってしまったのである。

 個々に自由な変更を認めていると、個では効率化がなされたとしても、全体で見たときにかえって非効率に陥ることがある。部分最適を追求する結果、全体最適を損ねるということが起こりうるのである。権限移譲を行って現場を活性化するのも大切なことだが、一方で管理者は、個々の現場が部分最適の弊害に陥らないように、全体最適の視点を併せ持ってコントロールしていかなくてはならない。

 

倉庫の5S

 「倉庫が片付かない」「棚に入りきらない」という話を聞き、現地視察に赴いた。屋根の高い大きな倉庫だ。建物の中に入ると、幅10メートル規模の大きな保管棚がいくつか設置してある。しかし保管棚の間口がところどころ空欄になっており、有効活用されていないようだ。一方で、①ある部品については棚にあふれるほど詰め込んである。モノによっては、②パレット積み・ラップのまかれた状態(おそらく入荷された状態のまま)で棚の前においてある。そのほかに③ほこりをかぶって真っ黒になったまま何年も放置されている部品もあった。

 現場作業者にインタビューをしてみると、①については「毎日たくさん出荷するので、たくさん入荷してくるのだ」という。②については、「入荷してすぐに出荷されるので、棚に保管する手間を省いたのだ」とのこと。③については、「入社以来さわったことのない部品で、よく知らない」ということであった。一方で発注担当者にインタビューを試みようとしたが、結局誰が何をどのようなタイミングで発注しているのかよく分からない状態であった。
 発注のほうは全容をつかむまで時間がかかりそうなので、ひとまず倉庫の5Sを進めることにした。片付かないときは「かたづけろ」と掛け声をかけているだけではダメで、片付かない根本原因を探らなくてはならない。そこで部品リストと入出庫のデータを入手した上でABC分析を行い、その結果をふまえて部品を「Aランク:1か月以内に回転するもの」「Bランク:3か月程度で回転するもの」「Cランク:1年以上回転していないもの」に分類した。この分類に基づき、Aランク品の保管スペースを多くとり、保管場所を確保した。Bランク品は発注者と情報を共有して在庫がゼロになるように調整した。Cランク品については、今後使用される見込みがないものや長期滞留品であるので、廃棄処分とした。

 これによって倉庫内に現に保管されている在庫物が大幅に減少した。そして棚区分を見直したことにより、棚からあふれる部品や保管場所のない部品がなくなり、倉庫内の5Sをより高いレベルに維持することが可能になった。副次的効果として、保管効率が40%向上し、保管棚の一部を撤去することが可能になった。保管棚を撤去したことにより広大な作業スペースが生まれ、作業能率や作業の安全性を高めることに役立った。

【コメント】このときの視察は、在庫管理の問題かと思って現地に赴いたが、結局倉庫の5Sの問題になった。適正在庫や受発注業務改善等の大きな問題に取り組むと、部署をまたがったり資料の収集に手間取ったりと、何か月もの時間がかかる。成果がすぐに表れてこないので、途中で関係する作業員のモチベーションが下がり、プロジェクトが挫折するということも起こりうる。この事例では、ひとまず現場の5Sから手を付けたことによって、目に見える効果をすぐに体感でき、結果的に作業員の改善意欲が高まることになった。改善に慣れていなかったり管理の行き届いていないような職場では特に言えることだが、改善はいきなり大きな改善を狙うのではなく、まずは身近な小さな改善から始め、成果を積み上げるように進めたい。

 

改善提案の表彰式

 とある企業で改善活動が盛んに行われているとのことで、年度末の表彰式に出席した。提案件数トップを取った社員が表彰され、社長から表彰状を受け取っていた。
 拍手をしながらふと気になったので、隣にいた人に「他の人の提案件数は?」と聞いてみると、ほとんどゼロだという。表彰されるのは「毎年あの人なんですよ」とのこと。あとで壁に貼ってあるグラフをみせてもらうと、なるほど年間提案件数のほとんどが一人に偏っていた。
 このように、改善活動を行っているが提案者がごく少数の同じ人に偏っているという事例は少なくない。改善活動は全員参加を旨とし、参加者が意見を出し合い活発に議論することが期待される。提案者が特定個人に偏る場合には、そもそも仕組みに問題があることが多い。①改善活動をチーム活動として行っているか、②改善提案のためのトレーニングを行っているか、③改善活動のための時間や余裕を確保しているかといった点をチェックし、対策を練るとよい。

 

つくるほど利益が出る?

 年末の繁忙期に工場を視察した。この工場では第一工程で原料を加工して形にし、第二工程で袋詰めを行う。第三工程で段ボールケースに詰める。ラインの出口に、箱詰めされた商品を仮置きする。そうしているうちに出荷場から出荷担当者が必要数を取りに来る、という流れだ。
 生産は滞りなく進む一方で、出荷場から商品を取りに来る様子はない。そのため仮置き場に商品がどんどんたまっていく。そのうち山積みになり、置く場所がなくなった。たまらず作業者が商品を他のフロアに一時的に移動させたり、仮置き場から出荷場まで持っていき、出荷場に強引に置いてきたりしていたが、出荷場の方も置く場所がないので拒否したりで、現場が混乱していた。
 ベテラン作業者と話ができたので、「毎年こんな感じですか」と聞くと、「今年は特別だ」という。山積みになった商品を見て「これ全部売れますか」と聞いてみると、んん…と言って、「売れるとは思わんね」という返事だった。
 次に職場の責任者を紹介されたので、「たくさん作っていますね。」と声をかけると、「作るほど利益がでるからね。」という返事。聞けば、今年着任した新任の工場長が「とにかく作れ、利益がでるから」と号令をかけていて、フル残業でフル稼働する生産計画を立てているとのこと。一方で、営業所長から「そんなに売れるか」とクレームが来て、言い合いになっているという。
 ここで言っている「作るほど利益が出る」というのは、少品種大量生産時代によく言われた話で、生産量を増やすほど固定費の単価が下がるので、その分だけ計算上の利益が増えるという話だ。しかし作った分だけ売れればよいが、そんな時代ではないので、売れなかったときには不良在庫の山となる。

  この会社では営業所と工場の間に大きな壁があって、両者の連携が行われていない。それぞれ別個に販売計画・生産計画を立てている。しかもその誘因が働くような人事評価の仕組みになってしまっている。少品種大量生産時代のビジネスシステムから転換・脱却できていない典型例だ。
 これは全社的改革の宝庫だな、と思う一方で、管理者個々の「自分が正しい」という思い込みが強い会社なので、実際の改革は難航するだろう。改革は理屈をかざすだけでは進まない。働く人々の心を動かす必要がある。さて自分が社長なら何から手をつけるか。そんなことを考えつつ、工場を後にした。

 

ごみが大量に出る

 ある倉庫で「ごみが大量に出る」という情報を得たので、さっそく現場を見に行った。この職場では、商品を包んでいるビニールと商品を縛っているヒモなど、梱包材のごみが大量に出ていたのだった。
 作業手順を追ってみると、まず、あるメーカーからの商品が「2個縛り」で納品されてくる。これを入庫担当者が仕分けした後、「2個縛り」のまま棚入れする。「2個縛り」であるが、在庫のカウントは「1」ではなく「2」である。
 次に、出庫担当者が棚の前にやってきて、「1」出庫する。「2」ではないので、ピッキングの際にビニールやヒモなどの梱包材をはぎ取る。ピッキング作業者は、同じような商品を一日に100個~300個ピッキングするので、一人当たり100個~300個の梱包ごみがでる。
 そのはぎ取った梱包ごみを、作業者は持って歩くわけにはいかない。かといってその都度ゴミ箱に捨てに行くわけにもいかない。人によってはゴミ袋をもってピッキングしている人もいたが、それでもゴミ袋はすぐにいっぱいになる。いちいちゴミ袋を取り換え、いっぱいになったゴミ袋をどこかによけておかなくてはならない。次第に面倒になり、みなはぎとった梱包ごみを足元に投げ捨て、あとでまとめて大掃除するようになったのだ。
 足元に捨てられた大量の梱包ごみは、まったく迷惑な存在。風に吹かれて他の職場に飛んで行ったり、山積みのごみの中で作業をすることになったり、ごみを踏みちらかしたり。その現場を通りがかった経営幹部が見て、仰天するという有様だった。

 なぜ2個縛りで納品されてくるのか?出庫は必ず1個単位なので、1個づつ納品されて来ればよい。見たところ2個に縛るための梱包材なので、1個づつ納品されるのであれば梱包材は使用する必要がない。
 納品してくるメーカーに問いかけてみたが、2個単位の発注・2個単位の納品しか受け付けないとのこと。さて運賃の都合か、生産工程の都合なのかはよくわからないが、メーカー側でも梱包する手間や梱包材の購入費が省けてよいと思うが、まったく聞いてもらえなかった。そこで荷受けの時点で梱包材をはぎ取り、納品業者に返そうとしたが、納品業者もメーカーとは別の会社なので、ごみはいらない、運賃よこせ、と言われて、結局うまくいかなかった。

【コメント】 複数の会社が絡む改善は難しい。この事例は結局解決しないままに終わったが、今の自分ならどう対処しただろうか。この事例当時のように、普段のやり取りもなく、いきなり別の会社に「今までのやり方を変えてくれ」と電話しても、聞いてもらえないのは当然だ。しかしごみを減らすメリットはお互いにあることなので、説得の手順を間違えなければ話はまとまりそうなものである。
 一つは工場見学に招待したり、先方を訪問するなどを通じて、普段から綿密に連携を取っておくことである。共同でコストダウンの活動を行うのも良いだろう。環境問題への取り組みを共通の利益にするのも方法だ。せめて担当者間で普段から顔を合わせ、交流を深めておきたい。管理責任者や社長同士のトップ会談もやって欲しい。いざというタイミングが来たら、自社の都合でなく、お互いの共通の利害を説くようにする。昔の人は、他人を説得するときは「私憤を公憤に変えよ」といった。複数の企業が絡むときは、サプライチェーン全体の視点から問題を見つめ直すようにしたい。

 

朝礼を休む人

 ある職場でたまたま朝礼に居合わせたので、末席に参加した。20人くらいいただろうか。作業員のだれかが前に出て、社訓を読み上げている。よく聞こえない。みんなうつむいてぼそぼそと復唱している。なんとも空気の重い、元気のない朝礼だ。
 しかし作業員の気持ちもよくわかる。人前で話すなんて、絶対イヤという作業員は多い。そもそも人と話すのが苦手で工場の作業員になった人もいる。それなのにみんなの前で社訓を読み上げるなんて。それは大変な苦痛に違いない。というのは、私自身が若いころそうだったから、よくわかる。
 あとでリーダーに聞いてみると、やはり社訓を読むのがイヤで欠勤する人がいるという。今日も別の人が読み上げる予定だったが、その人は無断欠勤。でもみな暗黙のうちに事情を知っているから、現場では問題にしない。しかしそのようにして欠勤する人は、普段は黙々と職務に打ち込み、勤務態度はとても良いというから、惜しい。この出来事をきっかけに、私は朝礼の意義向上について考えるようになったのだった。

 

休憩室が快適すぎた

 現場視察の後、管理者と話す必要があった。館内アナウンスをしてもらったが、いつまでたっても来ない。どうしたものかと部屋を出て、廊下をいったりきたりしていると、誰かが通りがかった。「○○さん、ご存じないですか」と聞くと、「ああ、休憩室にいるんじゃないの?」とのこと。
 さっそく休憩室に行ってみると・・・そこはパラダイスだった。昨年に建物の一部建て替えがあり、立派な休憩室ができたという。しかしなぜか休憩室の3分の2は管理者専用になった。その工場の管理者はみな煙草を吸うので、いつしか管理者専用の休憩室=管理者専用の喫煙室になった。カベには大型の液晶テレビが掲げてあり、一日中ついている。エアコン完備で室温快適。ドリンクの自販機はもちろん、パンの自販機もそろっている。ガスコンロがひいてあるので、わざわざやかんで湯を沸かし、アツアツのコーヒーを入れている。しかも休憩室の中にトイレもあるのだ。
 この休憩室が、管理者にとってあまりに快適なので、いつしかここが仕事場になっている。現場の仕事場は建物が古く、夏は暑くて冬は寒い。作業員の陳情も聞かなくてはならない。しかしこの休憩室は快適だ。なんでもそろっている。作業員たちも入ってこない。そこで管理者たちは、自分のノートパソコンを持って、いつしか休憩室にこもり、ここでみなと談笑しながら仕事をしているのだった。
 私と面会するはずの管理者も、休憩室ですっかりくつろいでいて、予定を完全に忘れていたらしい。休憩室は、何のために存在するのか。この日以来、休憩室のあり方について考えるようになった。

 

あるはずの部品がない

 ある作業場で「在庫が合わない」「あるはずの部品がない」というので、現地を見に行った。この作業場では、まず入荷検品を終えた部品が入庫担当者の手によって棚に格納される。何日かした後、出庫担当者がピッキングリストを持って棚の前に行き、棚に格納された部品を取り出して出庫する。
 ところが、出庫担当者がピッキングのために棚の前に行くと、あるはずの部品がないのだという。データ上は在庫が「1」なのに、実際の棚は「0」。在庫が一つ合わない。入荷された日付に、部品に貼ってあるバーコードをH/Tで読み取り、システム上在庫が「1」になっている。だから倉庫内に部品が入ってきたことは間違いない。「1」入庫したあとの「1」の出庫なので、ピッキングのミスでもなさそうだ。そこで現場では入庫担当者の仕分けミス・棚入れミスが疑わしいということが言われていた。
 ミスが起きているときは、管理者は安易に作業者のせいにせず、仕組みに原因を求めるようにしなくてはならない。単なる作業ミスだと考えると解決しない。なぜ作業ミスが起きるのか?を考えてみる。種々の事情により質問や観察といった手法が使えない状況であったので、自分で入庫と出庫の一連の作業をやってみることにした。自分でやってみれば何か気づくかもしれない。すると、やってみてすぐに決定的な問題に気づいた。
 棚の「列」を示す札(A~Z)が、左の棚と右の棚の中間に貼ってあるので、札の示す番号が左右どちらの棚を意味しているのかわからない。さらに、棚の「行」を示す札(01~)が、上の棚と下の棚の間に貼ってあるので、札の示す番号が上下どちらの棚を意味しているのか、一目で分からないのである。もし集中力を欠いた作業者が無造作に棚に格納すると、左右上下間違えて格納することが起こりうる。毎日単調な作業を繰り返していると、ときに集中力を欠き、なんとなく棚入れしてしまうことがある。こんなとき、無意識的に左右上下を入れ間違えるのではないだろうか。
 そういえば、だれかが「部品が棚にないときは、両どなりか上下の棚に手を突っ込んでみるんだ」と言って笑っていたのを思い出し、ああなるほど、と納得した。

【コメント】ミスが起きたときに、人のせいにしているうちはミスはなくならない。人は過去に作った仕組みの中で仕事をしているので、悪意なくミスが続くような場合は仕組みに問題があるのだ。仕組みが改善されない限り同じようなミスが続く。このケースでも、現場では「作業者が間違えるから」「厳しく言っている」ということだったが、いつまでたってもミスはなくならなかった。5WHY法の言うように、なぜ間違えるのか?なぜ集中力を欠くのか?と問い続けることにより、いろいろと仕組み上の問題が見えてくる。
 また、管理者が安易に作業者のせいにすると、職場の中で「あいつが悪い」「自分は悪くない」という雰囲気があっという間に作られ、特定の作業者に批判の目が集中し、いじめや嫌がらせ、ケンカのもとになる。特に工場では閉鎖的な環境ゆえ、作業者の目が内向きになりがちで、いじめや嫌がらせが起きやすい。こうした険悪な雰囲気は、見えないところで生産性やチームワークに悪影響を及ぼすので、良好な職場環境づくりのためにも、管理者はそのような人情の動きにも注意を払わなくてはならない。

 

修理隊長の活躍

 ある工場を訪れていたときのこと、機械が停止し、ラインがストップした。作業員たちは持ち場に立って、やることがない様子。しばらくすると、工具箱を持った人が駆けつけてきた。手際よく修理に取り掛かる。機械の上から下から覗き込み、慣れた手つきでてきぱきと直す。やがて機械が動き出し、ラインが稼働した。修理人は修理のためだけにほかの部署からやってくるらしく、「修理隊長!」と呼ばれ、現場の人たちに感謝されていた。
 ところが1時間もしないうちに機械が停止し、ラインがストップした。しばらくして例の修理隊長がやってきた。同じように直して、帰って行った。その後すぐに、3度目のラインストップが起きた。3度目の時は、修理隊長がいつまでたっても来なかった。自分の仕事で忙しいとのこと。その間ラインは動かない。10分、20分。時間はどんどん過ぎていく。近くにいたベテラン風の作業員に聞いてみた。「修理は難しいのですか」。返事は「いや、バルブを閉めるだけだ」という。ならば「自分たちでもできる?」と聞いてみると、もちろんできるが・・・とうなずいた後、「でも工務の仕事だからね」といった。

 この場合、ラインをロスなく稼働させることを第一に考えなくてはならない。しかし現場では「あれは誰々の仕事だから」というように、組織と仕事の区分を最優先させている。まさにセクショナリズムの弊害だ。閉鎖的な環境にいて、長年同じメンバーで単調な仕事を繰り返していると、このようなセクショナリズムの弊害に陥りやすい。本人たちが不合理さに気づかないのだ。これは珍しいことではない。しかもこんな場合にはそもそも現場管理者の感覚がマヒしていることが多いから、いつまでたっても修正されない。こんなときには外部者の視点が役に立つ。

 

 

 

作業の安全確保

ある倉庫の作業場から「作業が危険だ」というクレームが出ているという話を聞いた。安全確保は極めて優先順位の高い仕事であるため、さっそく現場を見に行った。
 倉庫に入ると、巨大な保管棚が設置してある。間口の高さは60センチほど、それが5段になっており、棚の高さは3メートルくらいある。一番上の間口に保管されている部品を取り出すときは、脚立を使う。作業者は脚立を設置して、よじ登り、部品を取り出して、持ったまま脚立を降りてくる。この部品は、5キロくらいあるので、これを片手にもって脚立を降りてくるのは大変危険である。しかも脚立は安定が悪い。最上段に作業者がのぼって部品を持つと、作業者の体重+部品の重量で70キロ~80キロくらいの重みが脚立のトップに来る。これで脚立がぐらついて、作業者は恐怖心を感じるのだ。

 当面の対策として、脚立を棚に固定するフックをつけたり、二人作業によって一人が脚立を支え、もう一人が脚立によじ登るというようにしていたようだが、それでも危険な作業には変わりがない。危険防止の観点からは、事故や災害につながりそうな要素を事前に排除していくのが原則である。そこで、そもそも脚立を使わなくても作業ができる方法を考えることにした。
 まず、部品の保管区分の変更を行った。当該棚に保管されているすべての部品の品番と在庫回転率がわかる資料を入手し、ABC分析を行った。その上で、回転頻度の高いAランク品については脚立を使わなくても手が届く間口(下から3段まで)に保管するようにした。一方で、通常は出荷されない特殊品や、回転率が低いために在庫ゼロでよい部品については、上段の間口(上から2段)に保管するように区分変更した。
 その結果、通常の部品取り出し作業においては、脚立を使う必要がなくなった。もちろん出庫の前には入庫の作業があるので、入庫の作業者も脚立を使う必要がなくなった。これで脚立が転倒したり脚立から転落するような事故は極力回避できるようになった。
 副次的効果として、脚立の上り下りの時間が短縮されたので、その分だけ作業時間が短縮された。時間にすると一人当たり1日20分程度短縮されており、作業者が10人だから、毎日200分の時間短縮になる。この職場の時間当たり人件費単価が3,000円╱時だと仮定すると、3,000円×200分÷60分×稼働20日=200,000円╱月、年に換算すると200,000円×12か月=2,400,000円のコスト削減要素が生まれることになる。

【コメント】 この事例のポイントは、脚立が危ないから固定するという「現状追認の対策」ではなく、そもそも脚立を使わない方法はないか、という「現状否認の対策」を行ったことにある。根本的な対策を考えた結果、安全性が確保されたことはもちろん、作業時間の短縮等の追加的なコスト削減効果が生まれた。さらにその後、「そもそもこんな大きな棚はいらないじゃないか」という棚撤去の話になり、「もっと小さな倉庫でいいじゃないか」ということで賃借料削減の話に広がっていった。なおこの職場では、その他にも危険なエリアや作業が多々見られたので、KYT(危険予知活動)の導入を行った。KYTは作業者が参加して現場の危険を事前に排除していく手法の一つであり、危険予知能力を高めていくために有効な手法である。