起業のきっかけ

人生の転機

2001年のこと、私はある企業で中小企業向けの訪問営業の仕事をしており、中小製造業を中心に約300社を担当していました。この頃は不景気突入の時代で、海外ではエンロンやワールドコムの事件があり、国内では日経平均株価が10,000円を割り込みました。
 

この年、多くの中小企業が経営破綻に追い込まれます。中小企業白書の資料によると、2001年は中小企業の倒産件数が19,164件(2013年は10,855件)と高くなっており、過去20年で見ても最高件数です。私の担当していた中小製造業ももちろん例外ではなく、多くの顧客企業が倒産に至り、その過程を目の当たりにしました。

 

平凡な日常を過ごしてきた私は、経営危機に直面する町工場の現実に衝撃を受けました。何か経営の役に立ちたいが、知恵が出ず、何もできない。そんな自分にとても悔しい思いをし、己の無力さを思い知りました。


 

このとき、自分に何ができるのかと自問自答を続け、いつか中小製造業の経営コンサルタントになる、という目標を立てました。実務経験を積み、専門知識を身に付け、少しでも世の中の役に立つ人間になろう、という志を立てたのです。

修行の道

コンサルタントになると決めた後、コンサル会社への転職を何度か試みましたが、不採用が続きました。しかしその間、大手企業の製造工場や物流作業の現場で、現場管理者としての経験を積むことができました。


さまざまな職場で種々の困難に直面し、乗り越える経験を積んできました。うまくいかない日々が続きましたが、そうして試行錯誤を続けることにも意味があるものです。日々の試行錯誤の中からコツや独自のノウハウを形成し、いつしか20%~40%のコストダウンを安定的に達成できるようになりました。

 

改善で一番苦労したのは、人間関係です。皆それまでのやり方や習慣を固く守ろうとする。しかし一旦作り上げたものを一度壊して、もう一度新しいものを作り直すこと。それが進化を続けるうえでの重要なポイントです。この思いを心の支えにして、多方面を説得し働きかけて走り回っていました。


 

ところで、現場改善のキモは見えないロスを見えるようにすることです。そのためには改善技法を用いることが有効ですが、それだけでなく、社員一人一人の意欲を大切にすべきです。社員の意欲が前向きに変わった時、大きな力が生まれるからです。メンバー相互に火が付き、一丸となってカベに突進すれば、壊せないカベなどない。そして成功体験を共有することで感動が生まれる。その感動が次への意欲を生み、その意欲が新しいものを創り出す。こんなふうにして、社員一人一人の意欲を引き出すことが高い成果につながるのです。 

 

結局、コンサルティング・ファームへの転職はかないませんでしたが、そのおかげで現場管理の実戦経験を積むことができ、現場の汗と涙を知り尽くすことになりました。人は理屈通りには動かないものです。成果を出すためには理論や技術も必要ですが、一方で人情の工夫というもの重要になるのです。実地を通してそんな経験を得たのが私の最大の財産です。

VEとの出会い

ある現場でチームのマネジメントを行っていた頃、改善活動の成果が人によって異なるのが気になっていました。チームによって成績が異なるというか、人ごとに、あるいは人の組み合わせによって成果が異なる。それは人によって成功への道筋がバラバラだからでしょうか。


このような経験から、「成功プロセスを標準化したい」という思いを持つようになりました。人々の意見を結集し、共通の土俵で議論し、一つのゴールに向かって同じ道筋を歩んでいく。そんな仕組みを作ることができたなら、成果を量産できるに違いない。

 

そうした問題意識を持ち続けていたとき、本当のVE(Value Engineering)に出会いました。それまで私は、VEのことを知っていましたが、コストダウンのツールの一つであると理解していました。あるとき会社がVE有資格者を増やすという方針を打ち出していたので、VEの専門誌をあらためて読み込んでみると、それまで気付いていなかった発見があったのです。


 

VEは成功への思考プロセスを明らかにしたものであり、単なるツールではなく、方法論である。VEは成功への道筋を提示しており、様々な人の意見を共通のステージに乗せ、同じ目標に向かって意見を集約していく力を持っています。

 

また、VEの本質は、現状から離れ本来の役割を考察して新たな方法を生み出す点にあります。この思考法は成功への過程で参加者に発想の転換を促し、新たな創造を自然に引き出していきます。さらにこの思考法は、物事の考え方や捉え方を提示したものであるため、製品や現場の改善だけでなく、ビジネスのあらゆる場面に使えます。ビジネスどころか、人生のあらゆる場面に応用可能であることに気付いたのです。

自己研鑽

VEを真の意味で理解した後、私は自分自身にVEを適用し、VE式に「何のために?」「何をすべきか?」を考えながら、自らのスキル研鑽に励みました。その成果が出たのか、管理職の仕事を得て経営マネジメントの実戦経験を積むことができました。そしてこの頃には、経験に裏付けられた自分なりの考え方やモノの見方を持つようになり、自信をもって行動できるようになっていました。

 

一方で、自らのスキルについて、経験のみに依存するのではなく、学術的・理論的な裏付けがもっと必要だと考えていました。そこで私は、夜学の社会人大学院に進学しました。

大学院では、中小企業の経営戦略をテーマに選んで論文を書き、修士号を取得しました。その他、中小企業経営や現場改善手法についての小論文を書きため、自分なりに知見を磨きました。また、MBAのクラスには成長意欲の高い人たちが集まっていました。大手メーカー、医療、商業、銀行など多様な業種の第一線で活躍する中堅リーダーたちと実戦的な議論を重ね、自らのビジネス思考を徹底的に鍛え抜く機会を得ました。

 

プライベートでは会社の利害とは関係のない人たちとビジネスについて議論し、次の日には学んだ知見を職場で存分に発揮する。働きながらまた新たな気づきがあり、それをもって学校で議論する。働きながら学んだ2年間は、自らのスキルを高めるうえで大変有意義でした。


起業へ

いつ起業するのか、ということについては、いろいろと悩み、考えてきました。中小町工場の中には、優れた技術を持っていても、それを利益に結びつけるための仕組みが不足していたり、技術力を対外的にPRしていくことが不得手なこともあります。そうした点をサポートすることで、経営者は本業に専念し、自社の英知を発揮して企業の成長発展を実現していくことができるはずです。


90年代以降、メーカー企業の海外進出が進み、国内産業の空洞化が指摘されてきましたが、一方で次第に国内回帰いうことも言われはじめ、近年では国内において作業者や技術者の確保の困難性が急速に問題化しています。また中小企業を主体とする産地・産業集積のあり方についても、従来の分業による小規模・多企業型の集積から、技術やノウハウの相乗効果を主眼とした企業間の戦略的結びつきに変化しつつあります。


 

こうした産業構造の再変化の渦中において、中小製造業はものづくりの新たな境地へ入り、優れた技術を持つ国内中小町工場の活躍の機会が広がってくるに違いありません。私自身も、これまでに蓄積してきたノウハウを存分に発揮する機会があるはずです。

 

思えば中小製造業の経営コンサルタントになるという目標を立ててから、かなりの年月が経っていました。幾度と挫折を味わう一方で、カベを乗り越えるための苦労や技術を磨くことの喜びを知り、有意義な日々でした。知識、経験、体力など様々なものが充実し、迷いもふっきれた。市場も改革機運が高まっている。あとは自分が決断するのみ。今やらなくていつやるんだ!こんなふうにして独立を決意し、起業に至りました。

追記

さて、 起業2年を経過して

 

起業後は順風満帆というわけにはいかず、受注が進まず苦しい時期がありました。しかしこの10年で積み上げたものを信じる思いがあり、自分には心のよりどころがある。負けずに続けているうちに、2年目に入る頃から急速に受注が増え、今では30社以上の企業様との取引が生まれています。


この仕事の魅力は何でしょうか。やはり関わった工場や起業で経営の効率が上がり、成果が現れてくるときの喜びです。現場に入って社員一人一人とコミュニケーションを取る。問題や課題を皆で抽出し、解決策を議論する。皆で行動し、実現する。そして社長や社員の皆で達成の喜びを共有する。達成感の共有と積み重ねがこの仕事のやりがいであり、魅力であると思います。